【番外編】ルージュはキスのあとで
「長谷部さんは知らないかもしれないけど、このチケットってかなりのプレミヤなんですよ。ものすごく価値があるんですよ」
知っているよ、と口に出しては言わない。
もう少し必死になって俺を誘いだそうとする真美の顔を見ていたいから。
そんなことを目の前の本人に言ったら……さぁて、どんな顔をするのだろうか。
想像しただけで、笑える。
「で、ですからね! 長谷部さんもどうかなぁと思いまして……」
「……」
「あ、で、でも! 無理にとは言いませんから。長谷部さんがめちゃくちゃ忙しいってことは百も承知してますし」
「……」
「や、やっぱり無理ですよね? こんな人ごみ……行きたくないですよね」
落胆しながらスゴスゴとチケットを引っ込めようとしている手を掴む。
驚いた顔をして俺を見上げる真美の顔。
俺は、少しだけ微笑んだ。
そう、少しだけ。
本当はすごく嬉しいのだが、なんとなくそれを真美にみせたら負けなような気がした。
まったく大人げない自分にあきれかえる。