【番外編】ルージュはキスのあとで
「あー、本当に面白くない。面白くないぞ」


 昨夜のことを思い出し、再び怒りがフツフツと湧いてくる。

 自他共に認めるブラコンとしては、こんな冷たい仕打ちにかなりショックを受けているんだ。
 ただ腹立たしいのは、俺がこんなにも京のことを大事に思っているというのに、京はあまり思っていないということだ。

 それが真美さんと付き合いだしてからというもの、とくに明らかになっている。
 俺が京を大事に思っている比率より、京の俺に対しての愛情は軽い。軽すぎる。

 両親が離婚して、それぞれに引き取られたからといったって俺と京は双子の兄弟。
 血のつながりは濃いのだ。

 ひょっとでの真美さんなんかに負けるような絆じゃないんだ。

 それなのに、京のヤツめ。
 俺をないがしろになんかしてさ。冷たすぎるよ、まったく。

 もちろんさ、これだけ真剣に女の人を好きになれた弟を見るのは、内心嬉しいんだ。
 兄として、さ。


 俺たちの場合は、家柄だとか容姿も関係していた。
 俺たち個人ではなく、家柄を目当てにした女だとか、顔がいいからというだけでなびいてくる女。
 そんな女たちに、うんざりしていたのは確かだ。

 だから、今までの京は恋愛に淡白だったし、アイツからのめりこんでいく恋愛なんて今まで一度もなかったと思う。
 それが、今。

 真美さんという女性が突如京の前に現れた途端、京は人が変わった。

 人間らしくなった弟をみて、喜ばない兄がどこにいる。
 だからさ、二人が仲良くしていると聞いて嬉しいんだ。


 ……嬉しいのだけど、やっぱり面白くない。面白くない。面白くないぞ!


 この心広き、優しいお兄様を差し置いて恋愛ごとに現をぬかす弟。
 これは一度、京に知らしめなくてはならない。

 この神崎 進という兄が、どれだけ大事な存在なのかってことをね。怒らせるとどんなことになるのかってこともね。
 京は今一度、確認しておく必要があるだろう。


「なんかいい方法はないかなぁ……」



 優しい兄をないがしろにすると、酷い目にあうんだということを京に伝えるにはどうしたらいいか。
 色々考えたが、これが一番いい方法かもしれない。



「そうと決まれば、皆藤さんに連絡だな!」



 ああ、なんだか楽しくなってきた。
 ここのところ京が相手してくれなかったから、ずいぶん鬱憤が溜まっていたようだ。
 俺は、思わずニンマリと笑った。



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