【番外編】ルージュはキスのあとで
「体験モデルの間だけやればいいや~なんて思っていたんじゃないでしょうね!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ、彩乃ってば」
ヒートアップしていく彩乃をなんとか宥めようとするのだが、火に油を注ぐようなものだったらしい。
ギロリと私を睨む彩乃の視線の厳しいこと。
私は、小さく縮こまった。
確かに、彩乃が言うとおり。
今日の私はすっぴんメイクに近い……と、思う。
でも、これにはものすごく深い理由があるわけで……。
私はその理由を思い出し、顔を赤らめた。
「ってか、どうしてここで恥ずかしがるわけ?」
「えっとね、これには深い事情ってものが……」
「事情?」
彩乃の顔に、少しだけ戸惑いが生まれたように思う。
やっと落ち着いた彩乃を見て、ホッと安堵した。
「詳しい話は……ここじゃできない」
「……」
「とにかくご飯食べてからにしようよ」
「……」
「ね?」
懇願に近い形で彩乃に頼めば、やっと表情を和らげてくれた。
「じゃあ、全部吐いてもらうわよ。理由とやらを、ね」
それだけ言うと、彩乃は箸を持って黙々と食べだした。