プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ
ミシェルは、市ヶ谷副社長はとてもステキな上司だと言っていた。どんな風に恋を育てていたのだろう。ほんの少しの間でも。そして市ヶ谷副社長は……ミシェルのことをどう想っているのだろう。

「ノッティングヒルのマーケットにはよく行った。ミシェルはあんな風に見えて、本当は小さなソバカスを気にしたりするぐらい、繊細でやさしくて可愛い女性だからね」

 目を細めて市ヶ谷副社長は言う。その表情がなんだか寂しそうだった。

「ロンドンにいらっしゃったときは、ミシェルが側に?」

 私が訊きたかったことを察して、市ヶ谷副社長は頷く。

「あぁ。彼女といるととても楽だった。何でも先回りしてやってくれているから。その代わり、彼との愚痴をたくさん聞かされた。彼女にとって僕は上司というよりも親友という目で見ていたかな」

 やさしく笑う市ヶ谷副社長を見ると、私の方がずきっとする。

「大切な……存在だったんですね」

 核心に触れていいのかどうか分からない。
 なんとなく市ヶ谷副社長はミシェルに本気だったのではないか、と思った。

 大人の恋愛事情はすべてを明らかにはしたりしない。会話の中でオブラートに包んで察する。なのに一方通行ではなくてちゃんとキャッチボールになっている。

 市ヶ谷副社長の良さはそういうところで、きっとミシェルは彼に相談することで癒されていたんだろう。


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