プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ

 清水寺で待ち合わせしたのはお昼前くらい。おかげでゆっくり温泉を堪能して朝を迎えられた。

 これからますます秋が深まっていけば趣のある景色がみられる気がするな、と京都の風景を眺めた。

「ミシェルとしては、安産のお守りをもらっていったから、御礼参りにきたかったんだってね。僕たちに会うのはついでのようなものさ」

 市ヶ谷社長は言って笑うが、私は時々見せる彼のせつないような表情の方が気になってしまった。

「情けない男だって思うかい?」

「そんなことないです。人を好きになると皆、不器用で……ただそれは一生懸命なだけだと思うから」

「ありがとう。君には色々御礼をしないとね」
「旅行に来られたと思って、楽しみます」

 色々忙しくて、潤哉さんとはまだ京都に来られていなかった。八つ橋ってなんだ?なんて言っていたっけ。

 やさしく髪を撫でて、今度の休みは一緒に行こうかって――。

「色男をさしおいて、誰を思い出してる?」
「あ、ごめんなさい……なんだかやっぱり慣れなくて」

 思い出すと会えない寂しさで胸がせつなくなる。毎日毎晩側にいて……それが当たり前だったからかな。

 昨日の夜に声を聴いたら、ますます……。

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