プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ
「……そっか。残念だけど。楽しんでおいで」
 内心は面白くないが、そう言って頭を撫でてやるだけ。

「ありがとう、潤哉さん」
 彼女の笑顔に魅せられて、僕は喉元まで出かかった文句を封じ込んでため息をつく。

 帰宅すれば独り占めできるのだから、それまで彼女を自由にさせていたい。急に海外転勤になってついていくので必死だった彼女がようやく仲間を作って楽しそうに活き活きとしているのだから。

 忙しい日々、一緒に暮らせるようになり、仕事でもプライベートでもずっと側にいる。これ以上何を望むというのだろう。

 そう言い聞かせても僕の彼女へ触れたい欲求は高まるばかりで。


 ――こういうのを独占欲というのだろうか。

 
 そして週末の土曜日、美羽が帰宅してから、食事は外でいいと言ってあったにも関わらず、彼女は僕の分を用意すると言ってキッチンに立った。

「いいよ、僕は」
「だって、待っていたんでしょう?」

 十以上も離れている彼女の方が、僕よりもずっと大人だ。対して僕は、子供のようにいじけているだけじゃないか。

 僕は彼女の側に行き、彼女を抱きしめ、シンクの蛇口を止めた。

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