天使の舞―前編―【完】
「私をここから出して。
人間界へ戻してよ。」


乃莉子の言葉に反応したのは、シラサギであった。


アマネの翼より、二回り程小さい黒いそれを、パタパタとはためかせ、乃莉子に向かって口を開いた。


「無礼者!
このお方は、魔界の王子なのですよ。
何という口の聞き方をするのです。」


軽く睨まれて、乃莉子はたじろいだ。


「アマネ様のお妃様になれるのです。
こんな光栄な事が、他にありますか。
私だって…。」


少し感情的になってしまったようで、シラサギは言いかけた自分の言葉にハッとして、口を閉じた。


叶わぬ想いほど、苦しいものはないだろう。


相手の気持ちも同じなのに。


黙ってシラサギを見つめているアマネの、哀しく笑う仕草が、どうにもならないアマネ自身の立場に向けられている様で、乃莉子はちょっぴり切なくなってしまった。


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