天使の舞―前編―【完】

  本能の赴くままに

アマネのその一連の動作は、とても冷静で優雅に見えた。


心の内に渦巻く黒い波は、傍目には分からない。


アマネは、勝手知ったる自分の部屋の中をツカツカと進み、丁寧に手入れされた、黒と金の装飾が施された、重厚感のある棚の前で、歩みを止めた。


そして、ゆっくりと掛けていた眼鏡を外し、その棚にそっと…静かに置く。


いつもの定位置なのだろう。


そこにはちゃんと、眼鏡を置くために、整えられたスペースが、確保されていた。


アマネは大きく息を吸うと、細く長く吐き出して、前髪を軽くかきあげた。


その魅惑的な所作に、ため息が漏れてしまいそうだ。


そしてチラッと、乃莉子に向けられた視線に、息を飲む。


吸い込まれてしまう程に整ったアマネの、印象的に輝く瞳は、黒から深紅へと色を変えていた。
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