天使の舞―前編―【完】
アマネは、シラサギの背中に手を回し、そっと労るように引き寄せた。


シラサギは、そんなアマネを恐る恐る、伺うように仰ぎ見る。


「その様な事、できるのでしょうか?
乃莉子様をお妃にして、アマネ様が覇王になるのが、本来の筋というもの・・・。」


涙をいっぱい瞳に溜めて、シラサギは一所懸命言葉を紡いだ。


「要は俺が覇権を、この手に入れさえすれば、いいんだ。
天界の王子の妃を奪えという、父の命令には、背く事になってしまうがな。
しかし、俺がこんなことをしたところで、父上の望むシンシア妃が魔界へ来る事はないんだ。こんな命令に意味など・・・」


真紅の瞳の魔界の王子は、シラサギに少年の様な笑顔を見せていたのだが。


言いかけた、自分の言葉にハッとして、アマネは勢いよくキャスパトレイユに向き直った。


「キャス。
父上の真意が、分かった気がする。」


シラサギは、未だ不安を隠せずに、曇った顔でアマネを見つめた。


キャスパトレイユと乃莉子も、怪訝な表情で顔を見合わせた。

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