天使の舞―前編―【完】
しばらくキャスパトレイユが足掻いていると、キィと軋んだ音がした。


待ちに待った扉が、ゆっくりと押し開けられる。


キャスパトレイユは開いた扉と共に、一歩後ろへ下がった、と、同時に。


「乃莉子!乃莉子!」


急いでキャスパトレイユは、部屋の中へ入ろうと、扉に手をかけた。


そして、中を覗く。


部屋の入口に立っていた愛しい妃は、肩を震わせ泣いていた。


涙に濡れた乃莉子の瞳が、キャスパトレイユを見つめる。


「嘘つき・・・。」


その静かな乃莉子の声が、キャスパトレイユを凍てつかせた。


「私を人間界に戻して。」


流れる涙を拭いもせずに、乃莉子は感情の見えない言葉で、キャスパトレイユにそう言った。
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