天使の舞―前編―【完】
ドンドンと叩かれていた扉の音が消える。


「乃莉子。
また来るから。」


しばらく、耳を塞ぎ扉にもたれて、うずくまっていた乃莉子に、諦めたようなキャスパトレイユの声がかかった。


「やっとお戻りですか?
キャスパトレイユ様。
では、これから私と一緒に、お茶でもいかがです?
いろいろ、お話したい事もあるんです。」


嬉しそうなライラの声がする。


「うるせぇ。離れろ。
茶なんか飲まねぇよ。
話なら、歩きながら聞く!
それに、俺にはもう乃莉子という妃がいるんだ。
気安く話しかけてくるな。
ライラにもう、用は無いんだよ。
トルティナにも、アーナスにもだ!」


「キャスパトレイユ様ったら。
ひど~い!」


部屋の前から立ち去る気配と共に、二人の会話する声も、遠退いていく。


完全に足音が消えるのを待って、乃莉子はそっと扉を開けて部屋の外を確かめてみた。


誰も居ない。


乃莉子は小さく息を吐いた。

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