天使の舞―前編―【完】
どれくらい経ったのだろう。


何も考えず、ただ寄り添うだけの二人。


朝から精神的にも肉体的にも疲れた乃莉子は、泣いた事で更に疲れ、最早抵抗する気力すら失っていた。


それに、包み込まれた悠の腕の中は、布団とは違った居心地の良さで、いつの間にか、乃莉子は静かな寝息をたてていた。


ちょっぴり開いた唇から、甘い吐息が漏れてくる。


閉じた瞳の、長いまつ毛。


悠は、もっとよく乃莉子の顔を見たくて、ワンレングスの長い髪をそっとかきあげた。


ドキッとする程、すべらかな陶器のような頬に涙の跡が伺える。


無意識に悠は、すやすやと眠る乃莉子の唇に、自分のそれを重ねていた。


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