天使の舞―前編―【完】
「何故お前かだと?
それはお前が、天界の王子に見初められたからだ。
何度も言わせるな。」


青年は眼鏡の奥から、冷ややかな視線を乃莉子に向けた。


「俺はあいつが愛した者を奪えという命を受けている。
だからキャスが名前の契約を交わした人間の所へ導けと、魔力を使ってわざわざここへ来た。
どんな女かと不安もあったが、俺もお前を愛せそうだ。
美しいモノは、愛でるに値する。
俺の妃になれ。
俺に名を与えよ!」


「い…嫌です。」


冷静な無表情で、淡々と威圧的に命令するアマネに、乃莉子は勇気を出して、拒否の言葉を口にした。


見た目は乃莉子のストライクなのだが、悠の俺様とは違うアマネの威圧感に、危険を感じたし、関わりたくも、巻き込まれたくもなかったのだ。


そう思った直後、彼の眼鏡の奥の魅惑的な瞳が、怪しく光かった。


鈍感な乃莉子にさえも、その眼光が不吉であると分かる程、アマネの眼力は冷気を帯びていた。
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