天使の舞―前編―【完】
「まぁいい。」


面倒くさそうに、吐き捨てるように呟いてから、アマネは右手の人差し指で、乃莉子の額をトンと軽く突く。


すると瞬く間に、乃莉子の瞳は色を奪われた。


思考能力が停止したかのような状態に見える。


「俺に名を与えよ。」


アマネは表情を動かす事なく、乃莉子に言葉をかけた。


乃莉子は言われるがまま、口を動かす。


「彼方さん・・・。悠彼方の・・・今度は・・・かなたさん・・・。」


「かなた・・・?かなたか・・・。」


たった今、彼方と名付けられ青年は真面目な顔をして呟く。


「アマネ。
この名は消滅した。」


ほんの僅かに名残惜しそうな口調ではあったが、自らを悪魔だと名乗った青年は、こうして今までの名前と決別した。

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