天使の舞―前編―【完】
人影というか…。
正確には悪魔影。
足首まである長く黒いマントに身を包み、背中には黒く大きな翼を背負った若き悪魔だ。


細身だが逞しいその腕には、女性を抱きかかえている。


いわゆる、お姫様抱っこ。


悪魔の腕の中にいる女性は、長いワンレンの黒髪を揺らし、意識を手放していた。


メルヘンというピンクの刺繍が入った、黒いエプロンを着けて、左胸には『ひろき』と書かれたネームプレートを留めている。


この若き悪魔こそ、乃莉子をシャボン玉に詰め込んで消えた、魔界の王子アマネであった。


鏡から完全に抜け出して、王子は迷いなく部屋の中を進み、躊躇うことなく、扉のないこの部屋の壁をすり抜けた。


壁をすり抜けて、王子の目の前に広がるのは、見慣れた自分の部屋である。


スタスタと歩みを進めて、アマネはベットの前にたどり着いた。

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