スイートなメモリー
「あのねえ。言わせてもらいますけど。大学からずーっとつきあってですよ?お前が泣くのなんかさんざん俺は見てきてる。無理してないって言う時にほんとに無理してないことあった? 一年以上連絡よこさなかったくせして、突然「元気?」ってメールきたらさ、そりゃ心配するだろ。なんかあったなと思うよ。そんで心配して来てみたらやっぱりこれだ。今さら俺にカッコつけようなんて思うことないんだからさ。話したらいいじゃん」
「ごめん」
「ごめんじゃないでしょ。ありがとうでしょ」
「……ありがとう」
「変わらないな」
色々迷って、誰かに話を聞いてもらいたかった。
学人さんと付合うことに不安を感じているのを、誰かに聞いてもらいたかった。
それをどうして笠置に聞いてもらいたいと思ったのかは自分でもわからない。やっぱり、笠置が一番私のことを良くわかってる、そう思っているのかもしれない。
店のメニューが、カフェメニューからバーメニューに切り替わった。
店員が持って来たメニューの中から、笠置が自分の飲む酒と、私の好きなマルガリータを頼む。
「ちゃんと帰りも送るから、自分が納得いくまで話しなさい」
「でも……」
「大丈夫。俺は芹香と別れたあと、誰ともつきあってない。そんな心配しなくていい」
「でも……」
笠置が、コーヒーカップをソーサーに叩き付けるように置く。
「俺がいいって言ってるんだからいいんだよ! そんな遠慮するくらいだったら最初っからメールとかするな! なんでそうやって助けてくださいって言って、人がじゃあ助けますよって手を差し伸べたら、でもダメですって引っ込めるの。じゃあそうですかってこっちも引き下がったら、お前絶対やっぱり自分は助けてもらう価値のないダメな人間なんだってまた落ち込むでしょう! だから俺は帰らないからね。お前がちゃんと話し切るまできちんと聞くから。だから自分が悪いとか思うな。俺が居たくているの」
「でも……」
大きな手で頭をぽんぽんと叩かれる。
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