スイートなメモリー
「やっぱりね。だからそのまま付合えばいいじゃないかって言われたかったんだろうな。芹香はそれを後押ししてもらいたかったんだ。でもなあ。俺はやっぱりそうは言えないよ」
私はまたうつむく。笠置を利用しているのを悪いなと思ったから。
「あのさあ」
笠置が、私の方を見ずに続ける。
「そんな若い男よりもさ。俺んとこに戻って来なよ」
そう言われることも期待していた。
そう言うだろうなと思ってなかったわけじゃない。
笠置にだったら、自分のはっきりしないあれこれをぶつけても怒られないってわかってたから。
だから私は笠置と話したくて、元気? なんてメールを送った。
きっと話をする機会を作ってくれると思ったから。
私をそのまま放っておくようなことはしないと思ってたから。
「芹香」
笠置は、今度は私の顔をまっすぐに見て話をしようとする。
私のバッグの中で、携帯が震えている音が聞こえた。
バッグから携帯を取り出す。メールは、学人さんからだった。
「ちょっと待って」
メールを開く。
『これから六本木に来ませんか、待ってます。場所は……』
「言うのが遅いとは思うけど。俺との結婚を考えてくれないか」
携帯と、笠置の顔を見比べる。
私は相当困っているような顔をしているのだろう。笠置が苦笑していた。
笠置の顔と、腕時計を見比べる。
二十二時。学人さんが指定した場所には二十分もあれば着く。
笠置は立ち上がった。
「今すぐ返事なんかしなくていい。俺は待てるよ」
伝票を持って笠置がいなくなる。
笠置を追いかけるべきか。
学人さんの元へ行くべきか。
しばらく迷ってから荷物をまとめて店を出る。
笠置が、店から一番近い日比谷線の入り口で立っていた。
「ごめん」
私がそれだけ言うと、笠置はにっこり笑って私の頭の上に手を置いた。
「謝らなくていい。待てるって言ったろ」
笠置の手から逃げるようにして、私は地下鉄の改札に向かう階段を降り始める。
私はまたうつむく。笠置を利用しているのを悪いなと思ったから。
「あのさあ」
笠置が、私の方を見ずに続ける。
「そんな若い男よりもさ。俺んとこに戻って来なよ」
そう言われることも期待していた。
そう言うだろうなと思ってなかったわけじゃない。
笠置にだったら、自分のはっきりしないあれこれをぶつけても怒られないってわかってたから。
だから私は笠置と話したくて、元気? なんてメールを送った。
きっと話をする機会を作ってくれると思ったから。
私をそのまま放っておくようなことはしないと思ってたから。
「芹香」
笠置は、今度は私の顔をまっすぐに見て話をしようとする。
私のバッグの中で、携帯が震えている音が聞こえた。
バッグから携帯を取り出す。メールは、学人さんからだった。
「ちょっと待って」
メールを開く。
『これから六本木に来ませんか、待ってます。場所は……』
「言うのが遅いとは思うけど。俺との結婚を考えてくれないか」
携帯と、笠置の顔を見比べる。
私は相当困っているような顔をしているのだろう。笠置が苦笑していた。
笠置の顔と、腕時計を見比べる。
二十二時。学人さんが指定した場所には二十分もあれば着く。
笠置は立ち上がった。
「今すぐ返事なんかしなくていい。俺は待てるよ」
伝票を持って笠置がいなくなる。
笠置を追いかけるべきか。
学人さんの元へ行くべきか。
しばらく迷ってから荷物をまとめて店を出る。
笠置が、店から一番近い日比谷線の入り口で立っていた。
「ごめん」
私がそれだけ言うと、笠置はにっこり笑って私の頭の上に手を置いた。
「謝らなくていい。待てるって言ったろ」
笠置の手から逃げるようにして、私は地下鉄の改札に向かう階段を降り始める。