スイートなメモリー
それを突き止めたいと思う私の思考を、雪花女王の行動が遮る。
雪花女王は、おもむろに芹香さんに口づけた。
芹香さんも、学人さんも、やはりなにも出来ずにいる。
私はもう、傍観者でしかなかった。
雪花女王が、芹香さんの頬に手を添えたまま静かに話しだす。
「あなたをここへ呼ぶようにお願いしたのは私なの。学人さんが心奪われている女性がどんな人なのか見たかったから」
学人さんがソファから身を乗り出そうとする。
「雪花さん……」
雪花女王の乗馬鞭がそれを制した。雪花女王の指先が、芹香さんの唇をなぞる。
「学人さんがあなたを手に入れたいと言って途方に暮れていたの。どうしたらいいのかわからないって。あなたが学人さんをどう思っているのか、私も知りたいの」
ぼんやりしていた芹香さんの目に、光が差したように見えた。
雪花女王のエナメルが反射しただけかもしれない。
芹香さんが雪花女王の手を静かに、けれど意志を込めて払いのける。
「……私は、学人さんのことをとても大事に思っていますよ」
雪花女王は、少しも動じていなかった。
「芹香さん。私は、学人さんをずっと見守ってきたわ。彼には色々なことを教えてきたつもりよ。けれど、私の教えてきたことが身に付いているのかどうかはわからない。私が教えたことをきちんとできているなら、あなたを手に入れることで不安になったりはしないはずなの」
芹香さんの手が、学人さんの手を探したように見えたが、彼女の手は自分のスカートの裾を握りしめた。
学人さんは、彼女が助けを求めているのに気づいていないようだった。
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