スイートなメモリー
「不安なのは……私の方だわ」
芹香さんの顔を見つめたまま、雪花女王の手だけが学人さんへと向く。
雪花女王が手にした乗馬鞭が、学人さんの顎先へ伸び、二人の女性から背けていた学人さんの顔を雪花女王へと向ける。
「学人少年。私の言いたいこと、わかるかしら?」
座ったまま雪花女王を見上げる従順な奴隷の顔をした学人さん。
「雪花さんの、見ている前で?」
雪花女王が、美しい笑顔を見せた。
芹香さんが、怯えたように立ち上がる。
「帰ります」
「待って」
学人さんが、芹香さんの手首をつかむ。
それを振りほどこうとする芹香さんに向かいあうようにして、学人さんが立ち上がるよりも先に、雪花女王が芹香さんを抱きしめ、耳元でなにごとかをささやいた。
少し離れて座ってカウンターに寄りかかっていた私には、雪花女王がなんといったのかは聞こえなかった。
私に見えたのは、芹香さんの表情がだんだんとなにかを諦めるように変化していくのと、雪花女王によってソファへ座らされた後に、学人さんが彼女を抱きしめた姿。
そして、雪花女王の手から学人さんの手に渡された首輪が、学人さんの手によって芹香さんの首へと巻かれていき、雪花女王はソファの後ろから芹香さんに目隠しをした。
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