スイートなメモリー
背中をマッサージされながら、ぼんやりとここしばらくのことを考える。
忙しかった。
式場探しに、ドレスの打合せ、披露宴に誰を呼ぶか……。
結婚がこんなに忙しいものだとは知らなかった。
「結婚前って、だいたい皆さん痩せて綺麗になるんですよね」
「そうなんですか。やっぱり忙しいんですかね」
けれど、その忙しさにかまけていることができたから、余計なことは考えずに済んだのだとも思う。
「ドレスがゆるくなってお直しすることも多いんですよねえ」
「一応、直さずにはすみましたけど、それって私が痩せなかったってことかしら」
「そんなことないですよ。前崎さんもお痩せになったと思います」
ドレスは、身体にぴったりしたものを選んだ。
デコルテと背中とどちらを大きくあけるかを非常に悩み、私は背中を開けることにした。
以前だったらドレスをしっかり選ぶことなどしなかっただろう。
適当にそれっぽいものを着て、それが自分に似合っているのかどうかなんて考えなかったように思う。
人から綺麗に見られたい、そうした欲求が自分にあることも知らなかったのだから。
「ドレスって悩みました?」
「悩みましたよ。いまだにちょっと悩んでる」
ドレスについてはかなり悩んだ。
デコルテを開けるタイプにするか、背中を開けるタイプにするかでも悩んだが、一番大きく悩んだのは首元のデザインだった。
周りから一番似合うと言われたデザインは、ビスチェタイプのドレスの首元を、白いリボンのチョーカーで飾るものだった。
首に巻いた白いリボンの中心から、ティアドロップのパールがひとつ下がるチョーカー。
それは清楚で可愛らしく、ドレスとともに身につけてみたら首筋に適度な緊張感があり、我ながら結構似合っているように見えた。
けれど、最終的に私はそれを選ばなかった。なんとなく、ためらってしまったのだ。
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