スイートなメモリー
美咲が俺の隣から離れて、俺が持ち帰って来た荷物を開け始める。
「色々もらってきたんですね。これとこれが引き出物? あ、これ人気あるんですよ。美咲がもらってもいいですか?」
美咲が取り出したのは、ポーチに入った化粧品のミニチュアセット。
雪花女王が美咲の手からそれを取り上げ、しげしげと眺めた。
「学人くん。彼女、会社は辞めたんでしょう?」
俺は声は出さずに頷く。この化粧品セットは俺が働いている会社で輸入している商品だ。
「新規取引先の課長がね、結婚するので是非我が社から買いたいと申し出てくださったんですね」
美咲があからさまにイヤな顔を見せた。
「それって……」
美咲の言いかけた言葉を、雪花女王が拾う。
「商品ごっそり買ってやるから黙って係長を嫁によこせってことよねえ」
「ま、そういうことですね。実際係長の抜けた穴は大きいわけだし」
美咲が納得のいかない顔をしている。
「でも、新規取引っていったって、なにか関係あるようなお仕事なんですか?その……」
「芹香の旦那さんが?」
俺が言いかけた言葉を引き取ると、美咲が申し訳なさそうな素振りで下を向いてしまったので、上を向かせて額にキスしてやる。
照れているのが可愛いなと思った。
「これがねえ。デザイン部門もある印刷屋さんなんですと。新郎はデザイン部の課長。デザインから入稿まで一気にいけるから我が社はカタログ作成をそこに発注することで大幅なコストダウンが可能になりましたとさ」
「うまくできてるもんだわね」
「ありゃ、係女王様の手腕でした。新規取引が始まって、カタログ安く作れるようになってよかったねー、って言ってたら結婚しますだったからね。まさか結婚しようと思ってる相手を仕事の取引先として紹介してくるとは思わなかった」
あれには俺も騙された。
< 127 / 130 >

この作品をシェア

pagetop