スイートなメモリー
四○四での一夜から数日後、それまで普通に接してくれていた芹香からメールがちょっとづつ途絶えていたのだが、俺はそれが仕事が忙しくなったせいだと思い込んでいたのだ。
仕事が忙しいことと、俺に対してどう接していいのか迷っているのが重なっているのだと思い込んでいた。
そうではなかった。
芹香は既に、俺か彼かを迷っていたのだろう。
そして彼を仕事に巻き込んだ。
一緒に仕事をしていたからこそ、気づけなかった。
そりゃそうだろう。
俺も同じく仕事が忙しくなったのだから、芹香の心情変化に気がつく余裕がなかったのだし、思いのたけをぶつけてしまったことで、芹香を手に入れたような気になって安心して仕事に打ち込んでしまったのだ。
うかつだった。
けれど、それも俺の技量の無さだったのだ。
今となっては仕方が無いと思っている。
結婚退職を知らされた時の俺のショックはとてもじゃないが言い表せない。
あんな形でフェイドアウトを言い渡されるなど、まったく予想できなかった。
前崎芹香係長は、自身が結婚退職することを、ある日の定例会議で皆の前で報告した。
俺個人に対しては、なにも言い渡されなかった。
俺もなにも問いただせなかった。
芹香にはぶつけられず、誰にも話せず、ここへ来るしか無かった。
雪花女王が「美咲を学人くんにあげる」と言ってくれて、美咲もそれを了承してくれなければ俺はどこにあのやり場の無い喪失感と怒りをぶつけたらいいのかわからなかった。
仕事が忙しいことと、俺に対してどう接していいのか迷っているのが重なっているのだと思い込んでいた。
そうではなかった。
芹香は既に、俺か彼かを迷っていたのだろう。
そして彼を仕事に巻き込んだ。
一緒に仕事をしていたからこそ、気づけなかった。
そりゃそうだろう。
俺も同じく仕事が忙しくなったのだから、芹香の心情変化に気がつく余裕がなかったのだし、思いのたけをぶつけてしまったことで、芹香を手に入れたような気になって安心して仕事に打ち込んでしまったのだ。
うかつだった。
けれど、それも俺の技量の無さだったのだ。
今となっては仕方が無いと思っている。
結婚退職を知らされた時の俺のショックはとてもじゃないが言い表せない。
あんな形でフェイドアウトを言い渡されるなど、まったく予想できなかった。
前崎芹香係長は、自身が結婚退職することを、ある日の定例会議で皆の前で報告した。
俺個人に対しては、なにも言い渡されなかった。
俺もなにも問いただせなかった。
芹香にはぶつけられず、誰にも話せず、ここへ来るしか無かった。
雪花女王が「美咲を学人くんにあげる」と言ってくれて、美咲もそれを了承してくれなければ俺はどこにあのやり場の無い喪失感と怒りをぶつけたらいいのかわからなかった。