スイートなメモリー
手ひどく振られるかもしれないと怯えている部分もある。
しかし俺には若さがあるよ。
して彼女にはキャリアがあるよ。
俺が彼女に近づいて、彼女が俺にはまったく興味を示さなかったとしたら。
彼女はきっとそのキャリアと立場を持ってして、俺を遠ざけることができるはずだ。そうすれば、俺は振られたとしてもそれほど恥ずかしい思いをしないでも済む。
こういうことには頭が回るのに、どうして俺は仕事を熱心にやれないのかね。最近はちょっと真面目にやっているように見せているけれど、それだって実のところは前崎係長と接触を持ちたいからだ。
実際、仕事はいつでも替えられると思ってる。
正社員に拘ることもない。特にやりたいこともないし、今の年ならまだフリーターを続けたってそれほど痛手じゃないだろう。
無鉄砲かもしれないが、俺は自分の若さを謳歌したいし、可能性を試したいと思う。
その可能性を試す先が、奴隷調教っていうのもどうかとは思うけどさ。

まあいいじゃない。
イケてない年上の女を、自分好みに染めていく。
これってなかなかの醍醐味よ。
なりふり構わずアタックするぜ。
雪花さんにはご主人様童貞って笑われるけどさ。
俺だって、学生時代はそこそこモテたのよ? 奴隷にまではできなかったけど、普通に彼女にする分には結構な打率だったんだから。
弱みにつけこみ落としてみせるわ。
やだなあもう。会社に来る楽しみができちゃった。
自分のデスクから、前崎係長を盗み見る。
難しい顔をして、キーボードを叩いていた。
目が乾いたのか、眼鏡を外して目薬をさす。
眼鏡を外した顔を初めて見た。
目薬で潤んだ目を見て、泣かせたいと思った。
身体の一部分に血液が集中して行くのがわかる。

やばい。
俺の中で、攻略したいゲームがスタートしてる。
彼女にした女を奴隷にできないかと試してみたことはあったけれど、最初から奴隷にしたいと思った女は初めてだ。
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