スイートなメモリー
仕事に戻り、前崎係長にライターを渡すチャンスがないか虎視眈々と狙っていたのだが、前崎係長に渡す書類も特になく、メールも他の同僚に同報を入れなくてはいけないような用事ばかりで(もちろん個人的なメールを社内アカウントで送るほど俺もアホではない)、前崎係長に近づくチャンスはまるでなかった。
よく見ていると、前崎係長が少しイライラしているのがわかる。ライターがなくてタバコが吸えずにいるのか……。
二人で話すチャンスが欲しいなあと思う。
「三枝、これテキストチェックしてくれない?」
隣の席の奴が、プリントアウトを渡して来た。
「チェックしたあとどうすればいいの?」
「係長に見せてオッケーもらったらデザイン屋に投げる」
「わかった」
時計を見る。終業十分前。
俺の視線が壁の時計に向かっているのに気がついた同僚が親切にも声をかけてくれた。
「係長に見せるのは明日でもいいから、明日見たら俺んとこに戻してくれればいよ」
俺は首を横に振る。
「いいよ。ちょっとくらい過ぎても構わないから、俺が見て今日中に係長に渡しておく」
「あ、そう? ありがとう、助かるよ」
俺こそ大助かり。
前崎係長に近づくチャンスをくれてありがとう。
俺はその日の帰り際に、赤を入れたプリントアウトに俺の携帯アドレスを書いたメモを添えて未処理ボックスへ放り込んで帰った。
机の上には前崎係長の落としたライター。
前崎係長は、ライターが机の上に置かれたのを見て一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに平常の表情を取り戻し「ありがとう、おつかれさま」とだけ言って、俺には一度も視線をよこさなかった。
まあいい。一歩前進したには違いない。
よく見ていると、前崎係長が少しイライラしているのがわかる。ライターがなくてタバコが吸えずにいるのか……。
二人で話すチャンスが欲しいなあと思う。
「三枝、これテキストチェックしてくれない?」
隣の席の奴が、プリントアウトを渡して来た。
「チェックしたあとどうすればいいの?」
「係長に見せてオッケーもらったらデザイン屋に投げる」
「わかった」
時計を見る。終業十分前。
俺の視線が壁の時計に向かっているのに気がついた同僚が親切にも声をかけてくれた。
「係長に見せるのは明日でもいいから、明日見たら俺んとこに戻してくれればいよ」
俺は首を横に振る。
「いいよ。ちょっとくらい過ぎても構わないから、俺が見て今日中に係長に渡しておく」
「あ、そう? ありがとう、助かるよ」
俺こそ大助かり。
前崎係長に近づくチャンスをくれてありがとう。
俺はその日の帰り際に、赤を入れたプリントアウトに俺の携帯アドレスを書いたメモを添えて未処理ボックスへ放り込んで帰った。
机の上には前崎係長の落としたライター。
前崎係長は、ライターが机の上に置かれたのを見て一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに平常の表情を取り戻し「ありがとう、おつかれさま」とだけ言って、俺には一度も視線をよこさなかった。
まあいい。一歩前進したには違いない。