スイートなメモリー
混んでいる電車に腹を立てることもせず、うきうきしながら恵比寿駅に到着して、コーヒーショップに入る。
ぐるりと店内を見回す。
居ない。
まだ早かったろうか。
仕方がないのでサンドイッチセットを頼んで、喫煙席で二人掛けの席を占領し、食事をしながら待ってみる。
来ない。
タバコを吸いながらぎりぎりまで待ってみる。
八時四十分。
この時間では芹香さんはもう会社についているだろう。
諦めて会社に行くことにした。
どうしたんだろうなあ。
いつもならいるだろうになあ。
遅れそうになって朝食はとらずに会社に行ったのかしら。
仕事を始める前の彼女に会いたかったな。
会社についてタイムカードを押す。
彼女の声が聞こえた。
「おはようございます。月曜日から遅刻しないで来るなんて素晴らしいじゃない」
そこにいたのは、三日前に俺の下で嬌声をこらえて甘い吐息を漏らしていた芹香さんではなく、いつものように仕事をきりきりこなすちょっと嫌みな前崎係女王様。
ジーザス。
この前寝たばかりなのにそのビジネスライクはなに?
世の中はそんなに甘くないのですね。
周りの人間が苦笑しているのが分かった。
俺が困ったような顔をしているので、朝から嫌みを言われてどうしていいかわからないでいるように見えるのだろう。
笑うがいいさ。
なんとなく悔しいので、その日はしっかり仕事をしようとちょっと勤勉になってみた。
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