スイートなメモリー
待ち合わせは新宿。タイムズスクエアで三枝君を待つ。
三枝君は、杢グレーの薄手のパーカーの上に黒いジャケットを羽織ってサングラスをかけていた。
私を見つけて、手を振りながら小走りに近づいてくる。もっとラフな格好をしているかと思ったのですこし驚いた。
会社でも黒っぽい格好をしていることが多いが、私服も黒っぽいのか。
「ごめんなさい、待たせちゃいました」
「私も来たばかりだから大丈夫」
三枝君が、にこにこと笑いながら私を見ていた。なんだか気恥ずかしくなる。
「……変じゃない?」
「どこが? 似合ってるし、芹香さんの私服を見られて嬉しいよ」
取り繕うことなく、思ったままをぶつけてくる三枝君にこちらが照れてしまう。
「お腹空いてるでしょう。タイ料理平気? 近くにランチコースのお店あるから」
「あ、嬉しい。俺タイ料理とか大好き」
照れ隠しに先をゆく私を、追いかけて三枝君が横へ並んでくれる。さりげなく車道側を歩いてくれるのが嬉しい。
グリーンカレーを食べながら、私は謝るタイミングを計っていた。三枝君はどれもこれも美味しいと、生春巻きやらトムヤムクンをたいらげている。
「あのね……」
「なに?」
「ごめんなさい」
下げた視線の先に、三枝君がテーブルの上に箸を置いたのが見える。そっと顔を上げたら、いつになく真剣な三枝君の顔。
ああ、この表情は見たことがある。
この前食事をした時に会計をさっさとすませて「帰りましょう」と行ったときの顔。
「なにがごめんなさいなの」
怒らせてしまったかと焦る。
そんなつもりじゃない。
ちゃんと話さなきゃ。
なにから話せばいいんだ。
焦るばかりでうまく言葉が出てこない。
< 57 / 130 >

この作品をシェア

pagetop