スイートなメモリー
「月曜日さ、確かにびっくりしたんだよね。この前寝たばっかりなのにそんなビジネスライクなの? もしかしてあの日だけのことだったのかって。だけど、芹香さんにも俺にも仕事での立場ってもんもあるじゃない。特に俺は出来も悪いしさ。だったら仕事頑張らなくちゃって思って。夕方メールきてたの凄く嬉しかったんだ。あれは俺ミスったよ。気がついてたら大喜びでお茶しに行ったのにさ」
「自分でもどうするのがいいのかわからなかったのよ。同じ会社の人とデートしたことなんかなかったし……それに」
「それになに?」
三枝君はアイスコーヒーをすすりながらにやにやしている。
わかっているのにわざと聞いているんだ。
なんてこと。
「なんでもないったら」
「途中でいいかけたことやめるのよくないよ」
恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かる。
「そういうの、ずるい……」
「わかってるけど言わせたい」
三枝君の視線が、カシュクールワンピの胸元に向けられているのがわかる。
オレンジジュースのグラスにまとわりついた水滴が、テーブルへ流れ落ちてゆく。
「今日ってこのあとなにする予定?」
「なにも考えてなかったわ。映画でも見る?」
「そういうのってずるい」
三枝君が私と同じセリフを返す。
視線が絡み合う。
数秒がとても長く感じる。
三枝君が、伝票を手にとって立ち上がった。
「出ようか」
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