スイートなメモリー
歌舞伎町へ向かい、コンビニで缶ビールと水を買ってからホテルへ入る。
土曜の日中だというのに、空いている部屋数は少なくて、自分のことは棚に上げて世間の人はふしだらだなあと思った。
部屋へ向かうエレベーターの中で、三枝君から手を握られた。
そっと握り返してみる。私よりも十センチほど背の高い三枝君を見上げたら、手は握ったままで顔だけそらされた。
ホテルの部屋はこの前よりもこじんまりとしていて、あの時は三枝君が色々考えてあの場所を選んでくれたんだと改めてわかった。
三枝君は部屋に入ると、またてきぱきと色々動き始め、バスタオルの場所を探したり、お風呂にお湯を溜めたり、ポットのお湯を沸かしたりしてくれる。
私もせめてなにか手伝おうと思い、冷蔵庫を開けてみたが冷蔵庫は透明なコインロッカーみたいになっており、中の飲み物などを買うシステムになっているようだった。
中に入っているのは飲み物だけではないようで、ピンク色をしたプラスチックの卵みたいな機械の用途を想像して恥ずかしくなる。
「三枝君、冷蔵庫には買って来たものをいれられないみたいよ」
三枝君が、冷蔵庫の前にかがんでいる私を見て笑った。
「芹香さん。こういうところは冷蔵庫がふたつあるんだよ」
テーブルの上のコンビニ袋を取り上げて、三枝君はお風呂場の手前にある戸をあける。
そこには電子レンジと小さい冷蔵庫があった。
「詳しいのねえ」
素直に感心しただけだったのだが、三枝君がちょっと不機嫌そうな顔をする。
「別にそんなしょっちゅう来てたわけじゃないですからね」
「そんなつもりで言ったんじゃないのよ」
拗ねるところもかわいいなと思った。
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