スイートなメモリー
「ちょっと!」
三枝君は、異様に長い細い鎖を手にして、ベッドに座っている。
「聞いてない、っていうか何事、っていうかなによそれ!」
「え? だって好きにしていいって言ったじゃない」
三枝君のきょとんとした顔と、その手の中の鎖を見比べる。
「ああ。これ? 俺が普段家の鍵とかつけてる鎖。普通よりはちょっと長いかもしれないけど。色々便利よ?」
ほんとだ。
一メートル以上あるっぽいけど鍵ついてますね。
いやあのその。そういうことでは、なくてですねえ。
それでなにをしようとしたかが私にとっては大問題だったりするのですけれども?
「絶対に痛くはしないし、怖い思いはさせないから。それは約束する。怖がったらすぐやめるし。なのでですねえ、あのですねえ……」
ベッドの上で鎖を手にして正座した三枝君が、私にむかって土下座した。
「お願いしますっ。手首だけでいいからちょっと縛らせてはもらえないでしょうかっ!」
そのお願いごとと、その態度のあまりに酷いギャップにがく然とする。
人間、思いもよらないことが起きると、自分でも思いもよらない反応を示してしまうものだ。
私は思わず、両の手首をそろえて差し出しながら頷いていた。
「はい。お好きになさって構いませんよ」
私のその言葉を聞いて三枝君は頭を上げたが、その顔はいつもの自信なさげな表情ではなかった。
「じゃあ、縛るからじっとしてなさいね」
二重にそろえた鎖が、私の手首に巻かれ、私の自由は奪われた。
自ら三枝君に触れることすらできない。
されるがまま。
確かに痛くはなかった。
三枝君の思いがけない部分を見ることも出来た。
少し怖いようにも感じたが、終わったあとはとても優しかったのでその怖さは払拭された。
なにが怖いって、恐ろしかったのは自分の反応だ。
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