スイートなメモリー
「自分の奴隷に着せたいからメイド服を貸してくれって言っても貸さないわよと言いました。わかったかこの屑」
「なんでわかったの」
「屑にもほどがあるわ!」
首輪を取りに来た時に、雪花さんから「その後の報告を必ずするように」と言われていたので、俺は土曜日のことを報告したのだ。
しかし、最初は面白がって聞いていた雪花さんの表情が、俺の話が進むにつれてだんだんとけわしくなってゆき、途中からあきらかに人の話を聞き流しており、そのうち美咲を構い始め、俺が途中で話すことを考えるたびに「で?」と適当な相槌を入れてくるようになった。
しまいには屑呼ばわりか。俺はちょっといらついた。
「そりゃあ俺は屑かもしんないけど、そういう言い方ないでしょう。雪花さんなにが気に入らないの。俺に奴隷が出来たのがそんなに気に入らないの」
雪花さんが眉を寄せて、明らかに機嫌を損ねたのがわかった。
美咲が、モスコミュールのグラスを手にして戻り、俺の前にグラスを置いてから雪花さんをなだめるように彼女の足下へ座り寄り添う。
雪花さんは大きくため息をついてから、美咲の頭を撫でて彼女に優しい笑みをなげかける。
ああ、俺の足下にも芹香さんがああして座ってくれていたら嬉しいのに。
「ねえ美咲。世の中にはこんな頭の悪いご主人様もいるのだけれどね、学人さんは奴隷を持つのが初めてだから、いくら馬鹿だと思っても馬鹿にしてはいけないのよ。きっとこれから学人さんも色々なことを学ぶと思うの。貴女は私がしっかりしつけてあげるから安心して頂戴ね」
美咲は雪花を見上げて、こくりとうなづいた。
肩のあたりで切りそろえられた黒髪が揺れた。
従順なM女ほどけなげなものはない。
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