スイートなメモリー
芹香さんが、ジャケットを脱ぐ。その下は長袖のブラウス。俺はブラウスの下に隠された素肌を見たくてたまらない。脱がせたい。
俺がこの前つけた噛み痕が彼女の肌にまだどれだけ残っているのか知りたい。
俺のもの、というしるし。
理性ではあまり痕をつけてはいけないと思っているのだが、冬も近くて着ている服が長袖だというのもありうっかりエスカレートしてしまう。
芹香さんも止めてくれればいいものを、かなり我慢するようなので、結局俺は彼女の肌になにかしら痕をつけてしまっていた。
見ると嬉しくなるんだけどね。そうはいっても痛々しく見えるのには変わりない。
「芹香さん」
「はいなんですか」
芹香さんは神妙な面持ちで俺を見て、カウンターの下でストッキングに包まれた足を組んだ。
秋口まではパンツスーツしか着なかった芹香さんは、今では時々スカートのセットアップも着るようになっている。
俺が「スカートも似合うと思うな」と言った時から芹香さんの服装は少しづつ変わっている。
スカートを履いたり、ネイルを塗ったりするだけで、芹香さんは見違えるように女らしくなった。
元々素材はいいのだし、立ち居振る舞いも上品なので、ちょっと気を使っただけでかなりレベルアップして見えるのだ。
俺の目に狂いはなかったよ。
「頼んだこと、ちゃんとしてきた?」
芹香さんが、アイスコーヒーを飲みながらうつむく。
「スカート履いて来たのは見てわかるでしょう」
「俺が頼んだのそれだけじゃないよね」
芹香さんは俺の問いかけを無視するようにしてバッグからタバコを取り出して火をつけようとする。
素早く芹香さんの手を握って、ライターを取り上げた。
驚いている芹香さんにさらに問う。
「俺の頼んだことは?」
イエスかノーだけで構わないのに、芹香さんは色々考えて勝手に恥ずかしがる。そんな様子も楽しくて、俺はじわじわと彼女を追いつめる。
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