スイートなメモリー
スツールに腰掛けて足を組み替えたのでスカートが少しずり上がってしまう。しまった、と思い慌ててスカートを直そうとした時にはもう遅かった。
私の手には学人さんの手が重ねられている。
うつむいたまま学人さんの顔を覗き込んだら、彼は、いじわるそうに薄い笑顔を浮かべて、ご主人様の顔をしていた。
学人さんの手は、スカートを押さえた私の手を押さえて、わずかにはみ出したガーターベルトの留め具の上から、太ももに触れる。
「もしやと思ったらやっぱりそうなんだ。俺には何も言わずにガーターなんか付けて」
「……ごめんなさい」
「芹香は、俺に怒ってほしくてあんな風にしてたの?」
頷くこともできない。ガーターベルトでつり下げたストッキングと太ももの境い目を手のひらで撫でられる。
「やめて……」
「俺の質問に答えてないよ」
「ごめんなさい」
「謝れなんて言ってないでしょう」
太ももに爪を立てられる。私はうつむいたままため息。
「お仕置き必要?」
声に出してねだるだなんてそんな恥ずかしいことはできない。私は小さく頷くだけ。
「そっか……」
盗み見るように見たら、学人さんは素晴らしく笑顔だった。
私は、期待するような顔で学人さんを見ていたのだと思う。
「そうか……」
学人さんはそれしか言わないで、太ももに置いた手はそのままで私から目をそらした。
学人さんの手を見たものか、私から離された彼の顔を見るべきか迷う。
学人さんの視線は、カウンターの上のグラスに注がれたまま。
「そんなに俺に叱ってほしかったの」
確かめるように繰り返されて、私の羞恥はぐっと引き上げられる。
「だったら、なにもしない」
その言葉に、思わず顔を上げて学人さんを見つめてしまう。
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