スイートなメモリー
「でもさ」
雪花さんが、乗馬鞭を弄びながら足を組み直す。
俺はMではないが、凛とした女王様は美しいと思う。
なんとなく、雪花さんのような装いをした前崎係長を想像してみた。
案外似合いそうな気がする。そんな格好だったら係女王様も堂に入るのではないだろうか。
「そういう人こそマゾかもしれないよね!」
「はあ?」
驚いて目を見開いたが、雪花さんはかなり真面目に言っていた。
「はあ? じゃないよ。なんでもきちんきちんとしてて自分に厳しい人ってMっ気強いこと多いって。甘えたいけど甘えたらいけないと思って抑圧してるのよ。そういう人がマゾ開眼したらけっこうハマると思う」
ボンデージを身につけて、目隠しをされて首輪を嵌めて、鎖につながれて四つん這いになった前崎係長の姿が目に浮かんだ。
……俺はなにを考えているんだ。
「変なこと言うから、おかしなこと考えちゃったじゃない」
「変なことじゃないわよ。私がどれだけのマゾヒストを調教してきたと思っているの」
「失礼しました」
雪花さんが多くの奴隷を調教してきたのは間違いないだろうが、俺には前崎係長にM性があるとはとても思えなかった。
気分を変えたくて、入り口から肉子を連れて来て自分の隣に座らせる。
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