スイートなメモリー
電車の中で黙っていた理由は、ストッキングが気になるからというだけではなかったもちろん、下着をつけずにストッキングを履くのは非常に緊張を強いられることではあるし、これから家に帰ってそれを学人さんに見られるというのも大変恥ずかしい。
けれど。部屋は見られてもいい状態だっただろうか。
もしかしたら、片付けているつもりでも普段気にならないところを学人さんは気にするかもしれない。
そうしたら、だらしない女だと思われて、学人さんは私にがっかりしてしまうのではないだろうか。
どうして日頃からちゃんと片付けておかないんだ私!
学人さんと付合うようになってしばらく経つんだから、家に連れて行くこともある程度は予想がついていただろうに……。
どうしてこういきあたりばったりなの。
店を出てから触れてもくれない学人さんの手に自分の手を伸ばす。
「あの……やっぱり今日は帰ってもらっちゃ、だめ?」
学人さんが一瞬で「なに言ってるのこの女」という顔をする。
「自分から誘っておいてこういうのもどうかとは思うんですが」
つい丁寧語になる。私の方が分が悪いのが分かっているからだ。
「芹香さん、俺んちどこだかわかってるよね」
ええ、わかってます。祐天寺ですよね。
「今コレ俺たちが乗ってるの。中央線ですよね」
「はい……」
「俺んち東横線な訳ね」
「ええ……」
私は腕時計に目をやった。現在地中野は夜の十時。
「終電ならまだ全然時間あるわよ?」
「そういうことじゃないでしょ」
ああ。ええ。うん。
まあ私もそれはわかってるんですけども。
そうこうしているうちに高円寺についてしまう。
なし崩しで改札を出て、改札前で立ち尽くす私たち。
学人さんは柱にもたれてため息をついた。
「芹香さんは、俺を困らせてそんなに楽しいの?」
今の学人さんは、会社にいる時の自信なさげな学人さんだった。私は慌てる。
「違うの。そうじゃなくて。あの、恥ずかしくて」
「今更なにを」
「そうじゃなくて」
下着をつけずにストッキングを履いていることと、部屋が片付いていないかもしれないという恥ずかしさはまったく別の種類の恥ずかしさだ。
けれど。部屋は見られてもいい状態だっただろうか。
もしかしたら、片付けているつもりでも普段気にならないところを学人さんは気にするかもしれない。
そうしたら、だらしない女だと思われて、学人さんは私にがっかりしてしまうのではないだろうか。
どうして日頃からちゃんと片付けておかないんだ私!
学人さんと付合うようになってしばらく経つんだから、家に連れて行くこともある程度は予想がついていただろうに……。
どうしてこういきあたりばったりなの。
店を出てから触れてもくれない学人さんの手に自分の手を伸ばす。
「あの……やっぱり今日は帰ってもらっちゃ、だめ?」
学人さんが一瞬で「なに言ってるのこの女」という顔をする。
「自分から誘っておいてこういうのもどうかとは思うんですが」
つい丁寧語になる。私の方が分が悪いのが分かっているからだ。
「芹香さん、俺んちどこだかわかってるよね」
ええ、わかってます。祐天寺ですよね。
「今コレ俺たちが乗ってるの。中央線ですよね」
「はい……」
「俺んち東横線な訳ね」
「ええ……」
私は腕時計に目をやった。現在地中野は夜の十時。
「終電ならまだ全然時間あるわよ?」
「そういうことじゃないでしょ」
ああ。ええ。うん。
まあ私もそれはわかってるんですけども。
そうこうしているうちに高円寺についてしまう。
なし崩しで改札を出て、改札前で立ち尽くす私たち。
学人さんは柱にもたれてため息をついた。
「芹香さんは、俺を困らせてそんなに楽しいの?」
今の学人さんは、会社にいる時の自信なさげな学人さんだった。私は慌てる。
「違うの。そうじゃなくて。あの、恥ずかしくて」
「今更なにを」
「そうじゃなくて」
下着をつけずにストッキングを履いていることと、部屋が片付いていないかもしれないという恥ずかしさはまったく別の種類の恥ずかしさだ。