スイートなメモリー
学人さんは、私の部屋が片付いていようがいまいが気にしないかもしれないとふと思う。
「そうじゃないならなんなの」
学人さんがイライラし始めたのを感じて私は焦る。
「部屋が片付いてなかったら恥ずかしいと思って!」
私が焦って口ばしった言葉に、学人さんは一瞬きょとんとしてから吹き出した。
「そんなの、気にしないのに」
「私が気にするの!」
わかったわかった、いいからタクシー乗ろう、と学人さんが私の肩に手を回す。
そっか、やっぱり気にしないのか。
「歩いても十分かからないのよ?」
「その十分も惜しいからタクシー乗る。乗ったら住所言って」
マンションについて、オートロックをあけて、エレベーターで自分の住む三階へついて、無言で部屋の鍵を開ける。
「ちょっと待ってね。部屋の電気つけるから……」
 玄関で靴を脱ごうとしたところで、学人さんに後ろから抱きしめられた。背後で、学人さんが後ろ手に鍵をかけた音が聞こえる。
「まなとさんっ、靴、くつっ!」
首筋にキスされる。耳元でささやかれる。
「だって、部屋に入られたくないんでしょ?」
あ、や、まあそれはそうなんです、けど。
背後から胸を揉みしだかれ、そのままブラウスのボタンが器用に外されていく。
逆らってはいけないと、心のどこかで思っているから私は学人さんにされるがまま。
力を入れることが出来ずに、思わず膝をついた私の上に学人さんが被いかぶさる。抵抗もできずに四つん這いになった私のお尻を撫でてから、学人さんはスカートを思い切りまくり上げて大きく息を吐いた。
「ああ。本当に俺の言うこと聞いてくれたんだね」
ストッキングの繊維越しに撫でられた初めての感覚に、私は思わず声を漏らした。
間髪入れずに、学人さんの手が私の口を塞ぐ。
「玄関だよ? 芹香は玄関でエッチなことをするような恥ずかしい人がここに住んでますよって、ご近所に知られて構わないの?」
そんなの構うに決まってる。
私は両肘で自分の身体を支えて、学人さんの手を外して自分の手で口を覆った。
それでよろしい、と学人さんが私の頭を撫でる。
頭を撫でられるのは好きだ。肯定されている感じがする。
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