ラッキービーンズ【番外編】
「え? いや、ちょっと寒くて、舌まわんなくて……」

『今、外なの?』

「水嶋は? どこにいるの!?」

『近くのコンビニ。メイは――』

「すぐ行くからっ」


水嶋の言葉に被せ気味にそう言うと、さっき八木原くんと行ったコンビニ目指して走り出した。

水嶋とも何度も歩いて行ったことがあるし、あそこで間違いないと思う。


水嶋が普通に応対してくれたことにホッとはしているけれど、早く顔を見て誤解を解きたいって気持ちの方が大きかった。

一方、電波の向こうの水嶋は面食らったみたいで、『え? メイ、今どこにいるんだよ』と困惑した声を出した。


「水嶋のマンション出たとこだよっ」

『バカ。一人で出歩くなんて危ないだろ。何時だと思ってるんだよ』

「もうすぐ0時! 日付変わるところ!」

『分かってんなら、出てくんな。俺がそっち行くから』

「やだ。もう向かってる!」


不毛なやり取りをしながら、私は息を切らしてコンビニへの道を走った。

水嶋の声を聞きながらだったせいか、気持ちが先走っていたせいか、夜道が怖いだとかそういう感情はいっさいわいてこなかった。


こんなに真剣に走ったの、久しぶりかもしれない。


「--メイッ」


五分くらい経った頃、私が一番聞きたかった声は、電波を通さずに直に耳に入ってきた。
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