渇望の鬼、欺く狐
 去年まではそうでもなかったけれど、旭はどうやら虫が好きらしい。

 動物たちは結界内には入ってこないとは言え、とんぼや蝶などの昆虫類は、結界内ではよく見かける程に生息していた。

 きっと動物とは違い、私の妖力を本能で感じ取れる程の力など携えてはいないのだろう。

 昆虫が好きなのだから、もしかしたら動物も好きなのかもしれないとは思うけれど。

 向こうが遠ざかってしまう以上は、旭には我慢してもらう他ない。

 
 とんぼを捕まえる事が出来ずに、残念そうにする旭を雪が励ましている。

 時が経っても、そんな光景は微笑ましくて堪らない。



「少し休憩したらどうだい?」


「駄目ー。あのね、俺がとんぼ捕って母ちゃんに見せるのー!」



 無邪気に笑って返した旭。

 きっと更に声をかけて止めようとしたところで、無駄に終わってしまうのだろう。

 旭は好きな事に一生懸命に取り組める子だから。

 そこまで考えて「そう」と告げた言葉。

 再びとんぼを捕まえようと懸命に励む姿を、日差しの届かない木陰に腰掛けて静かに見つめていた。




 

 
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