渇望の鬼、欺く狐
 旭のとんぼ捕りが成功を迎えたのは、それからおよそ一時間が経過してから。

 何度も失敗を繰り返す旭に、雪が丁寧に捕り方を教えて。

 やがて旭は葉に止まったとんぼにそっと近付き、後ろから小さな両手でとんぼを捕らえて見せた。



「母ちゃーん! 捕れたー!」



 見て取れる達成感に、自然と自分の頬が緩む事を感じる。

 とんぼの羽をしっかりと摘みながら、こちらへ走ってきた旭。

 自慢気に私の目の前にとんぼを差し出す旭の頭を撫でてやれば、旭の笑顔は深くなった。



「良く頑張ったね」


「うん! あのね、俺凄く頑張ったの!」


「そうだね。ちゃんと見てたよ」


「母ちゃん、ぎゅーしてー」



 口調が雪に似てきたと言うのであれば、それは甘え方とて変わらない。

 事ある毎に褒められる事を望み。

 事ある毎に抱きしめてとせがむ。

 そして私は。



「偉いね、諦めずに頑張ったから捕れたんだね」



 やはり、そんな旭が可愛くてどう仕様も無いのだ。


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