渇望の鬼、欺く狐
「あー、旭ばっかりズルいよー。藍、俺もー」



 私と旭が抱き合う姿を雪が羨み。

 そして旭と同じく、抱きしめてとせがんでくる。

 日々の光景に溶け込むやりとりは、いつだって心を穏やかにさせてくれて。

 いつからだろう。



『――――るよ』



 あの声が。

 あの言葉が。

 頭から離れていく事に気が付いたのは。



『藍』



 あの手の温度が。

 あの笑顔が。

 時と共に風化されてしまう事に対し、恐れを抱かなくなってしまったのは。



「……ほら、雪もおいで」



 いつからだったのだろう。
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