渇望の鬼、欺く狐
「藍好きー、大好きー」



 こちらからの許容と共に、すぐに抱き着いてきた雪の背中に手を回す。

 甘えて擦り寄る雪に対抗するかのように、旭の抱き着く力が強められた事を感じ取った。



「雪、駄目だよー! 今は俺が母ちゃんにぎゅーしてもらってるのー」


「何だよ、藍がいいって言ってんだからいいだろ」


「駄目ー。母ちゃんは俺のー」


「馬鹿か。藍は俺のでもあるんだよ」



 目の前で繰り広げられる喧嘩は、こちらが呆れてしまう程に毎回代わり映えしないけれど。



「母ちゃん、母ちゃんは俺のだよねー?」


「藍、藍は俺のでもあるでしょー?」



 それだって。



「二人ので構わないよ」



 毎回自分の心を満たしてしまうのだから。

 本当にどう仕様も無い。



 
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