渇望の鬼、欺く狐
 しばらく小競り合いを続けた二人だけれど、それぞれに満足いくまでに私に抱き着けば、その後はまたとんぼ捕りに向かってしまった。

 雪は何度も何度も、その手にとんぼを捕まえる。

 旭はそれを羨ましがり、同時に対抗意識を募らせて。



「雪ばっかりズルい!」


「だったらお前も、たくさん捕れよ」


「言われなくても捕るもん!」



 そんなやりとりを含めながらに、先程と同じくとんぼ捕りに励んでいた。

 二匹目、三匹目を捕まえると、要領がわかってきたのか、旭は簡単にとんぼをその手に納めるようになって。



「母ちゃん! また捕れたよー!」



 その度に満面の笑顔を浮かべながらに、見せに来てくれる。

 正直なところ、私はと言えば、とんぼにはそれ程興味はないけれど。



「よくやったね。凄く上手に捕れるようになったね」



 見せに来る度に、その満面の笑みを目に映せる事が嬉しいから。

 だからこうして、何度でも褒めてしまう。

 ゆっくりと沈みだす太陽。

 辺りは夕焼けに染まり、その中に溶け込む二つの笑顔に自然と見入っていた。

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