渇望の鬼、欺く狐
「俺ね、今凄く幸せだよー」


「うん?」


「だって、藍が居て、旭が居るでしょー?」



 綻ぶ頬と上がる口元は、きっと雪の感情そのものを示しているのだろう。



「俺ねー、藍と旭が居たら、他には何もいらないのー」


「旭が聞いたら、きっと喜ぶね」



 クスクスと楽し気な笑い声。

 素直な言動。



「ずっとずーっと、三人で一緒に居ようねー」



 その笑い声と同じ声色を発したい。

 その言動と同じ意味の言葉を返してやりたい。

 そう思うけれど。



「……ずっとずーっとは、難しいんじゃないかい?」



 今、雪に返してやれる言葉は、その願望とは裏腹なものだった。

 私の言葉を耳にした雪の体が、ピクリと一瞬だけ動いて。

 旭へと向けられていた視線が、真っ直ぐにこちらへと寄せられる。
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