渇望の鬼、欺く狐
「何だい?」


「藍好きー大好きー。これね、藍にお土産だよー」



 すでに雪は普段の調子を取り戻している。

 機嫌良く私の髪に何かを挿して。

 自分の手を宛がった事で、それがかんざしであると気付いた。



「やっぱり藍に良く似合うねー」


「もうお前には、いくつもかんざしを貰っただろう」


「でもあげたいんだよー」



 髪にかんざしを挿し終えて満足したのか、雪はまたその体を私へと預けて擦り寄ってきた。

 かんざしを外したところで、文句ばかり口にされる事は目に見えている。

 それを理由に、かんざしに触れていた手を旭へと戻す事にした。



「ねぇ、藍ー?」


「お前は静かにする事が出来ないのかい? 旭が目を覚ましてしまうよ」


「それ」



 私の肩に頭を擦り寄せながら。

 こちらを見上げて雪は漏らす。



「何で「旭」なの?」
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