渇望の鬼、欺く狐
「……何で?」



 間延びしない口調と、微かに硬い声。

 その視線や声から、逃げてしまいたい気持ちを覚えながら。



「お前だって、わかってるだろう?」



 逃げてはいけない気がした。



「わかん、ないよ……。何で、そんな事言うの……」


「雪」



 いつの間にか、信頼を深めるかのように仲良くなっていた。

 いつも面倒を見てくれるようになっていた。

 共に笑い、共に喜び。

 旭が泣いた時には、駆けつけて抱き上げてくれる。

 旭が要領を掴むまで、根気強く傍に居てくれて。

 肩車をして、寝ている旭をその手で撫でて。

 私と同じように。

 雪にとって旭という存在は、すでにかけがえのない物となっているのだろう。

 だからこそ。



「……旭は人間だよ」



 依存させすぎてはいけない。

 執着させすぎてはいけない。

 失ってしまった時。

 その悲しみは、抱えきれない程に大きくなってしまうから。
 
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