渇望の鬼、欺く狐
「んー……、母ちゃ……」



 もぞもぞと身動きした旭に我に返ったけれど、どうやらただの寝言らしい。

 一つ息を吐いて隣に横になれば、旭は寝返りを打ってこちらに背中を向けてしまった。

 後ろから抱きしめた小さな背中に、反応など見当たらなくとも。



「……お前は一生、私の子供だよ」



 先程思った言葉を、どうにも口にしたくなってしまった。

 室内に容易く溶けて消えた言葉は、きっと旭の耳には届いてはいない。

 それでも。

 この小さな背中が大きくなって、やがて曲がる頃も。

 高い声が低くなって、やがてか細くなる頃にも。

 こうして隣に寄り添って居たい。

 旭が最期を迎えるその瞬間までずっと。

 それが鬼である私と、人間である旭の運命ならば。

 私にとっては、ほんの一瞬でしかない、この時間を。

 旭にとっての永遠を。

 願わくば、ずっと見守っていられますように。


 鬼である自分が、神頼みにも似た事を考えてしまうだなんて。

 きっとどこまでも滑稽でいて、馬鹿げているのだろうけれど。








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