渇望の鬼、欺く狐
「あ、藍……、ほら、落ち着いて。……旭も」


「大体。帰りは荷物だって多くなるんだ。雪におんぶをせがんだって、してもらえないよ」


「平気だってば!」



 努力したところで、二人とも狐の声になど、耳を貸そうともしないのだけれど。

 五歳を迎えて、幼児はますます達弁になった。

 素直で明るく、好きな事に前向きに取り組む姿勢は、昔から少しも変わらない。

 同時に好奇心旺盛なところも。

 幼児が買出しに付いて行きたいと言い張る根底は、その強い好奇心故だろう。

 鬼とて、それを理解しているにも関らず。



「……とにかく。駄目な物は駄目だよ」



 やはり鬼は、その意思を覆そうとはしなかった。



「ねぇ、お願いだから……。雪からも母ちゃんに頼んでよ」


「え……」


「雪。わかってるだろうね」



 急に振られた会話。

 あれ程までに口を挟みこもうとしていたにも関らず、いざ言葉を求められてしまえば、狐は何と答えて良いかわからずに。

 
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