渇望の鬼、欺く狐
「ねぇ、雪!」


「雪」



 幼児と鬼から、痛い程の視線を送り付けられる狐。

 その視線を受けて、狐は困り果ててしまっていた。

 幼児の言いたい事もわかる。

 幼児が好奇心旺盛な事は狐とて理解していたし、いつも狐が買ってくる土産を目を輝かせて見ていたから。

 もしかしたら、どんな場所でどんな風に物が売られているのか、そういった事にも興味があるのかもしれない。

 そして鬼が幼児を心配する気持ちも、狐には理解出来ていた。

 とは言え。

 今求められている事は、理解ではないのだ。

 対極の意見を口にし合う二人から、それぞれに賛同を求められている。

 狐にとって幼児も鬼も、共に大切な存在だった。

 どちらの意見も尊重してやりたい。

 してやりたいけれど。



「あー……、えぇと……、旭……」


「うん!」



 ここはやはり、鬼に従う事が正解かもしれない。

 狐が呼べば、幼児は期待を募らせた目で狐を見遣る。

 真っ直ぐに濁りないその目は、ちくちくと狐の罪悪感を突き刺していく物。
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