渇望の鬼、欺く狐
 洞穴の入り口から中を覗く幼児は、興味津々だけれど、少し怯えているようにも見える。

 幼児の行動範囲内には洞穴などないし、洞穴には飾り気もないから、その反応は当然かもしれないが。



「怖いか?」


「中、暗いよー……」



 そう言いながらに幼児は、狐の着物にしがみついて。

 狐はそんな幼児の肩へと、軽く笑いながらに手を回した。



「変な物なんか何も出ねぇよ」



 そう声をかけても、幼児からの力が緩められる事はない。

 幼児のそんな行動は、狐に微笑ましさを感じさせる。



「……いい物ってこれー?」



 不満気にこちらを見上げる幼児へと、狐は首を横に振りながらに告げた。



「いや、違う。見せたかったのはほら。あっち」



 指差した方向。

 それは洞穴の入り口とは反対側の、景色の向こう側。



「あ……」


「見えるか? いつもお前や藍が居る社だよ」
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