渇望の鬼、欺く狐
「藍は本当に、お前が心配だっただけだ」



 知らなくていい。



「……そうなのー?」



 お前は何も知らないままで構わない。



「あぁ。今まで、お前が遠くに離れた事なんてなかっただろ? だから、きっと余計に心配だったんだよ」



 どうか純粋なままでいてくれ。

 その目を濁らせないでくれ。



「……そっか」



 お前を想う藍の為に。

 俺の為に。

 どうか真っ直ぐな心のままで、成長していって欲しい。


 狐の思考など、幼児には届く事はなくとも。

 幼児の頭に狐が手を置いた際に、幼児は笑ってみせたから。

 狐にとっては、それで十分であり満足だった。
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