渇望の鬼、欺く狐
「さて、そろそろ戻るか?」



 もう、幼児はその目に涙を浮かばせてはいない。

 笑顔を取り戻している。

 そう思っての狐の質問だったけれど。



「んー……」



 どうやら幼児は、納得がいかないらしかった。



「藍が待ってるぞ」


「……だって」



 たった今まで見せていたハズの笑顔はどこへやら。

 幼児は狐から視線を逸らして、呟くような声を漏らす。



「母ちゃん……、まだ怒ってるかなぁ……?」



 狐の口から落ちるは溜息。

 トン、と指で幼児の額を軽く弾けば、幼児は眉間に皺を寄せて額を押さえながらに狐を見上げた。



「何回も言ってるだろ。藍は怒ったわけじゃねぇよ。お前を心配しただけなんだって」


「でも……」

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